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新技術・新工法

塗膜剥離における電磁誘導加熱工法(IH工法)の導入と
施工性の改善

日本橋梁建設土木施工管理技士会
株式会社横河ブリッジ
監理技術者
河 内 幸 男
現場代理人
諸 木 良 仁

1.はじめに

工事概要

(1) 工 事 名:関門自動車道 関門橋 中央径間門司側南補剛桁補修工事

(2) 発 注 者:西日本高速道路株式会社 九州支社 北九州高速道路事務所

(3) 工事場所:福岡県北九州市〜山口県下関市

(4) 工  期:平成24年11月25日〜平成28年12月9日

 関門橋は関門海峡を跨ぐ道路橋で、本州と九州を結ぶ高速道路として昭和48年11月より供用を開始した3径間2ヒンジ補剛桁吊橋である。補剛桁はトラス構造で、鋼部材の防食には亜鉛溶射が採用されている。架橋から40年が経過し、交通量の増大に伴い様々な部分の劣化が進んでいることから、補剛桁の塗替塗装や疲労亀裂補修、支承の取替といった大規模補修工事が実施されている。

図-1 関門橋

2.現場における問題点

 関門橋が建設された1970年前後に製造および使用された塗料の一部にはPCB(有害物質)が可塑剤として使用されており、本工事区間の既存塗膜にもPCBが含まれていた(図-2)。

図-2 既設塗膜構成

 PCBは脂肪に溶けやすいという性質から、慢性的な摂取により体内に徐々に蓄積し、様々な症状を引き起こすことが報告されている。本工事では作業員の健康および環境への影響を考慮し、既存の塗装を除去する際に発生する粉塵の飛散防止対策をする必要があった。

3.工夫・改善点と適用結果

 本工事では、PCBを含む既存塗膜の剥離作業の飛散防止対策として、塗膜剥離剤工法と電磁誘導加熱工法(以下IH工法)の2種類の塗膜剥離工法を併用した。

3-1.塗膜剥離剤工法

 この工法は剥離剤を既存塗膜に塗布し、塗膜を軟化させて除去する工法で、「剥離剤の塗布」「養生」「塗膜除去」の工程を繰り返すものである。関門橋の既存塗膜厚は1000μmを超えていたため2回以上の塗布が必要だった。また、塗布後、剥離剤を浸透させるための養生材が必要である。剥離性能としては、概ね素地面までの剥離が可能で、部材形状に関係なく施工可能である。ただし、冬場などの気温の低い環境下では剥離剤を浸透させるための養生期間を長くとる必要がある。

3-2.電磁誘導加熱工法(IH工法)

 IH工法は誘導コイルが内蔵されたヘッドを鋼材表面に滑らせ加熱することで鋼材表面と塗膜の界面結合を破壊し、浮いた塗装をスクレーパー等で剥ぎ取る工法である。ただし、最下層の塗料にMIOやジンク等鉛系塗料が塗布されている場合は剥離できない。関門橋は最下層にこれらの塗料が使用されていなかったため、1回の施工で塗膜を剥離できた(図-3)。塗膜除去直後に鋼材が加熱される範囲は誘導ヘッド直下のみであり、鋼材表面温度は約100℃で母材や亜鉛溶射への熱影響はなかった。車輪がついたヘッドを鋼材表面に走らせる工法のためボルト部や隅角部のような狭小部の剥離はできないが、IH工法は塗膜剥離剤工法のような養生が不要のため施工速度が速く、外気温の影響も受けない。また、養生材等の廃棄物を最小限に抑制できる。

図-3 電磁誘導加熱工法

3-3.施工結果のまとめ

 表-1に2種類の塗膜剥離工法を比較した結果を示す。

表-1 塗膜剥離工法の性能比較

 本工事ではIHのヘッドを走らせやすい平滑面の塗膜剥離をIH工法で行って、IH工法で施工できないボルト部や隅角部に塗膜剥離剤を適用した。表−2に本工事のIH工法(剥離剤併用)と当社が過年度に剥離剤のみで施工した同じ関門橋の施工実績を示す。

表-2 施工日数と廃棄物量の比較

 2種類の工法を併用することで、塗膜剥離剤のみの場合に比べて施工日数が56日間短縮され、総廃棄物を約30%削減できた。IH工法は養生時間を必要としないことから労務工数の削減にもつながりトータルコストも改善されている。

4.おわりに

 我が国の既設橋梁ではPCBだけでなく含鉛塗料(鉛系さび止め塗料)を塗膜に含むものが少なくないため、塗替塗装工事での塗膜除去時の環境配慮は必須である。

 本工事では塗膜除去にIH工法を導入することにより有害物質を含む既存塗膜の飛散流出を防ぐだけでなく、塗膜剥離剤を使用する工法に比べて、施工期間の短縮並びに、労務工数と廃棄物量の縮減によりトータルコストの改善に成功した。

 今回、IH工法で施工できなかったボルト部や狭小部につては補機類の小型化などによる更なる効率化が期待される。