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品質管理

BHS鋼を用いたトラス部材全断面溶接継手の
現場溶接施工試験

日本橋梁建設土木施工管理技士会
川田工業株式会社
橋梁技術課
和田 浩介
Kosuke Wada
副長
北村 正見
Masami Kitamura
副長
倉本 健次
Kenji Kuramoto

1.はじめに

 BHS鋼は、従来のSM570、HT780鋼に代わる新たな橋梁用の鋼材として、降伏強度、破壊靭性、溶接性などを高めた鋼材である。東京港南部地区臨海道路橋梁上部築造工事は、大型物件としては日本で初めてBHS鋼が採用されており、この特徴を利用して設計を行うことにより、鋼材使用量と溶接施工量の大幅な軽減が可能となっている。

 また、主構造であるトラス部材の継手は、全断面溶接継手構造とすることで、部材接合部の鋼材重量低減、維持管理費の低減、および外観向上を図っている。さらに、フランジとウェブの溶接線を交差させないZ継手の採用により、脆性破壊に対する性能を向上させるとともに、スカラップの省略が図られ、部材箱断面が密閉状態となり、内面がメンテナンスフリーとなっている。

 本報告では、新しい鋼材であるBHS鋼の基本性能を確認するとともに、実作業に即したZ継手の施工法を検討した結果について述べる。

工事概要

(1) 工 事 名:東京港南部地区臨海道路 橋梁上部築造工事

(2) 発 注 者:国土交通省関東地方整備局 東京港湾事務所

(3) 工事場所:東京都江東区青海地先

(4) 工  期:平成18年11月20日〜平成22年3月25日

(5) 構造形式:鋼3径間連続トラス・ボックス複合橋

図—1 トラス構造とBHS500鋼の適用部位

2.現場における課題

(1) 新しい鋼材の採用

 製作を開始するに当たり、BHS鋼の特徴である高い溶接施工性という利点に対して、溶接材料や溶接条件などの情報が揃っていないことから、基本性能の確認試験を事前に計画し、求められる基準に適合する条件を把握するための溶接品質試験が必要であった。表—1に基本性能確認項目を示す。

表—1 BHS鋼使用における基本性能確認項目

(2) Z継手の採用

 トラス部材の全断面溶接は、最大板厚50mmのフランジとウェブが様々な配置角度や断面寸法を有する構造であり、施工環境に対しての品質の確認、溶接施工法の妥当性の検証が必要であった。

 Z型に配置されたフランジとウェブの溶接線変化部にも疲労性能向上が求められ、内面密閉とするために設けられたスリット状の開先を、フランジとウェブの突き合わせ溶接後に埋め戻すノンスカラップ部構造になっている。この部分での棒継ぎ溶接は避けられず、適切な処理方法の選定と、手順の明確化とその管理が必要であった。

 図—2にトラス部材のZ継手の構造を示す。

図—2 トラス部材の全断面溶接Z継手

3.対応策と適用結果

(1) BHS鋼材の基本性能試験

 従来の溶接継手の性能要求としては、引張強度およびシャルピー吸収エネルギー値が母材の規格値以上であることとされ、降伏強度は評価項目ではなかった。道路橋示方書の溶接施工試験においても同様である。しかし、本鋼材は降伏強度を基準強度としており、かつ鋼材特性を活かすために降伏点を断面耐力の基準としたLRFDによる設計を部分的に採用したため、新たに降伏強度を評価項目に加え、基本性能の確認試験を実施した。

1)予熱温度の確認

 本鋼材は割れ感受性指数(Pcm)が低く、道路橋示方書に明記された予熱管理温度の基準に照らせば予熱不要である。しかし、新たな鋼材であり現行の基準との適合性を確認する必要があることを考慮し試験を行うこととした。溶接継手の高拘束状態を再現可能な低温割れ試験として斜めy型溶接割れ試験(図—3)を行い、試験温度は実施工で想定される最小予熱温度(道路橋示方書に定められたウォームアップ予熱の実施温度)とすることで、現行基準に準拠した施工が可能であるかを確認することとした。

 試験の結果、溶接割れは認められず、本鋼材は現行の基準に適合していた。予熱管理温度としては、いずれの板厚に対しても予熱は不要であり、これにより同クラスの従来鋼に比べ、施工性の向上が図れることを確認した。

図—3 斜めy型溶接割れ試験

2)入熱量・パス間温度の確認

 従来鋼では、入熱量≦7KJ/mm、パス間温度≦230℃を目安に施工管理(本四基準)が行われ、一般に管理基準を超えた施工は行われていない。しかし、本鋼材は施工性に優れ、予熱の簡略化の他、高能率施工(大入熱化、高パス間温度の採用)も可能と考えられた。このため本鋼材と組み合わせる溶接材料のマッチング確認とともに、本鋼材の有効利用に向けた取り組みとして、管理基準の緩和を目的とした試験を追加することとした。確認試験の溶接は、橋梁施工に不可欠なサブマージアーク溶接とガスシールドアーク溶接とした。サブマージアーク溶接では、従来の管理基準を超えた入熱量≦10kJ/mm、パス間温度≦300℃とし、ガスシールドアーク溶接は、入熱量≦5KJ/mm、パス間温度≦300℃とすることで、施工性の改善効果の把握を行った。サブマージアーク溶接の試験結果を図—4に、ガスシールドアーク溶接の結果を図—5に示す。

図—4 BHS鋼の基本性能試験結果(サブマージアーク溶接)
図—5 BHS鋼の基本性能試験結果(ガスシールドアーク溶接)

 いずれの継手も引張強度、降伏強度およびシャルピー吸収エネルギー値は母材の規格値以上であり、溶接材料の組み合わせに問題はなかった。更に、従来の管理基準を超えた施工条件においても溶接品質が十分に確保されていることも確認できた。本鋼材は、低クラスの鋼材(SM50級)と同等の施工性を有していた。

 ただ、本工事では、鋼材特性を最大限に活用した管理基準緩和には至らず、従来基準に従った施工を行うこととなったが、鋼橋製作のコスト縮減に向け、近い将来、本鋼材に対する管理基準の見直しが期待される。

(2) トラス部材のZ継手施工試験

1)事前検討

 ① ノンスカラップ部形状の検討

 Z継手では、フランジ溶接線上にウェブ材が配置されることから、ノンスカラップ部の施工に対して、施工性や視認性の確保が前提となっていた。このため、継手溶接の施工が安定して行える環境を整えるべく、事前に模型をもちいた施工性確認を行い(写真—1)、フランジ溶接線の直上に位置するウェブ材には最適な開先を選定した。

写真—1 Z継手の施工性確認模型

 ② 溶接端部の処理手順

 溶接始端部および終端部は欠陥が発生しやすいので、溶接の中断が生じない構造の採用や施工要領とすることが品質確保の上で重要となる。しかし、スリット状に設けた開先をフランジとウェブの突き合わせ溶接後に埋め戻すノンスカラップ部構造では、溶接始終端部の残留は避けられない。このため端部の処理方法を事前に検討し選定した。開先端部は、写真—2に示す船底型とした。

写真—2 ノンスカラップ開先端部の船底型整形
写真—3 Z継手溶接施工試験状況

2)溶接施工試験

 Z継手の溶接施工試験は、実物大の最大板厚の箱断面モデルとし、もっとも厳しい配置角度を再現した試験とすることで、計画した溶接施工法の妥当性を検証した。施工試験状況を写真—3に示す。

 ① ノンスカラップ部の品質

 溶接施工試験の結果、本部位の施工性は確保され、写真—4の断面マクロに示す良好なノンスカラップ部の積層を得ることができた。非破壊検査でも全線に渡って良好な結果であった。

写真—4 ノンスカラップ部の断面マクロ

 ② 船底型整形部の品質

 写真—5にZ継手溶接施工後の外観写真を示す。ノンスカラップ端の船底型整形部の棒継ぎ溶接処理は健全であり、船底型整形前とノンスカラップ部溶接完了後に非破壊検査を行ったが欠陥検出のない良好な結果が得られた。

 以上のような事前検討と溶接施工試験による検証によって、課題であった部位の施工性が確保され、安定した品質が得られたことで、本橋製作における手順を確立することができた。

写真—5 Z継手溶接施工後の外観

4.おわりに

 本工事は、橋梁用に新たに開発されたBHS鋼の活用、維持管理を考慮した継手構造の採用など、多くの試みがあった。これらの取り組みは、今後の工事でも重要視されることが考えられ、今回のような溶接施工試験や施工検討結果が叩き台になるものと確信している。