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施工計画

台船上での桁組立および台船一括架設

日本橋梁建設土木施工管理技士会
株式会社 横河ブリッジ
現場主任
牟田 圭造
Keizou Muta

1.はじめに

  安治川橋梁は、西大阪延伸線事業(阪神西大阪線を西九条駅〜近鉄難波駅まで延伸する全長3.4kmの工事、平成21年春開業予定)のうち安治川上を渡る支間87mの単純トラスドランガー橋である。

  本橋の架設は後述する制約条件より、緑道横の河川護岸に係留した台船上を桁の組立てヤードとし、組立完了後、台船を移動し、潮位差により降下させる台船一括架設工法を採用した(写真—1)。

写真—1 台船一括架設

工事概要

(1) 工 事 名:西大阪延伸線建設工事のうち安治川橋梁上部工製作・架設工事

(2) 発 注 者:西大阪高速鉄道株式会社

(3) 工事場所:大阪市此花区西九条1丁目〜西区安治川1丁目

(4) 工  期:平成17年11月30日〜平成19年6月30日

  本報告は、係留した台船上への桁組立、そして都市部の河川内での台船一括架設について、施工上の特徴や創意工夫した点を記述するものである。

  一括架設要領を図—1に示す。

図—1 一括架設要領図

2.現場における課題

  以下に示す制約条件があったため、通常アーチ橋に採用される架設工法の適用が困難であり、過去に事例の無い架設工法を検討する必要があった。

制約条件

(1) 大阪湾に繋がる安治川の航路を長期間閉鎖する事は不可であり、河川幅を確保する条件から河川内に杭基礎を有するベントあるいは桟橋の設置は不可とされたこと。

(2) 現場周辺は都市部であり、建物および道路の利用状況を考えると、建物を撤去し、長期間交通規制しての送出し工法等が考えられたが、必要なヤードを確保できない状況にあること。

(3) 架橋地点の下流には、国道43号線の橋梁とJR環状線(航路制限OP+12.250)があり、大阪港沿岸などの製作ヤードで地組立した橋梁を、河川を利用し大ブロックのまま水上輸送することができないこと。

(4) 架橋地点付近の護岸横の緑道を部材搬入およびクレーン作業ヤードとして使用するのは規制することで可能であったが、敷地面積が狭く橋梁を組立てることは不可能であったこと。

3.対応策と適用結果

 2.で示した問題点を解決する工法としてP1側背面に作業ヤードを確保し、地組立桁を送出しにより一括架設する工法が考えられた。しかし、作業ヤード確保は大幅な事業費増加となるため避ける必要があったことから、用地確保および一括架設の条件を満たすために、河川護岸に係留した台船上を桁の組立てヤードとし、組立完了後、台船を移動し、潮位差により降下させる台船一括架設工法を考案した。

(1) 台船および係留方法

  台船の選定は、係留中に強風(30m/s)が作用しても台船が安定照査を満たすことを第一条件とし、台船に作用する橋体・ベント・台船等の全積載重量(約1,100t)が、台船排水能力の60%以内になることを条件とした。また台船の形状は、幅方向を台船係留時に河川幅(67m)の1/3以下とし、長さ方向は一括架設に旋回可能な寸法を条件とした。以上より載荷重量2,000tの台船(50m×18m)を採用した。

  台船係留方法は、コーナー部の4箇所を護岸側にワイヤで係留し、補助に係留ロープも使用した。係留時のワイヤは、最大風速時(30m/s)のワイヤ1箇所あたりの作用力(150kN)を負担する条件とした。

(2) ベント

  ベント設置の精度が、桁組立等の全ての出来形管理に影響を与えるため、ベント基礎部の設置基準面を正確に決めることが重要であった。しかし、不安定な台船上でベント設置および桁組立を行うため、通常の桁架設のように随時、測量を行いながら位置を確認することができない。そこで基準面を決めるために、レベルを3台設置し、同時に測量を行い、相対差を計測して設置高さを決定した。また、測量後に水糸によって各測点を結び、測量誤差が無いか確認を行った。

  台船上の桁組立時は、橋脚のような剛体と固定しないため、ベントだけで風荷重・照査水平荷重を受け持つ必要があった。ベントの転倒対策として、橋軸および橋軸直角方向ともに、H形鋼や溝形鋼を用いた水平材により各ベント上部梁と基礎梁を繋ぎ、せん断変形抑制の目的で上部梁と基礎梁の間にブレースを設置した

写真—2 ベント設置状況


(3) 桁組立

  台船上のベントで受けられる補剛桁は中央部分の5ブロックのみで、両端の2ブロックは張出しの状態となる。部材は陸上輸送し、陸上部の工事ヤードに配置した100t吊クローラクレーンを用いて架設した(写真—3)。順序は、端ブロックを除く補剛桁を支間中央部から両側に向かって架設し、その後、斜材とアーチを支間中央部から両側に向かってバランスさせながら架設した(図—2)。

写真—3 桁(アーチ)組立状況
図—2 架設ステップ

  台船上の桁は河川上高さ10mの位置にあり、また、付近に同等の高さの建物が無いため、レベル等で測量ができない。そこで、製作時の仮組立状態を再現するために、最初の補剛桁架設ブロックには、形状保持材としての架設用ラテラルを設置し、対角寸法を仮組立時に合わせることで、その後の基準とした。また、補剛桁架設において桁の通りおよびキャンバー確認は、橋軸方向にピアノ線を張り、補剛桁基準位置との差を計測し、精度管理を行った。

(4) 台船一括架設

  一括架設の実施日は、航行船舶が少ない休日かつ、潮位差の大きい平成19年3月4日(日)に決定し船舶の航泊禁止措置を行った。

1)台船移動・回転

  曳船とウィンチの併用により台船を回転させた。下流右側ウィンチを回転中心、上流左岸(対岸)側ウィンチを回転用、上流右岸(係留)側ウィンチを惜しみ用として用いた。その後、舫取船により係留ワイヤの盛替え、回転を完了させた。河川と直角方向となった台船上橋体を、ウィンチ操作で移動し所定の位置に合わせた。

  桁を所定位置に移動する微妙な調整は、橋脚上に設置した引寄せ設備で行った。仮受けの精度は、正規の位置(支承位置)から±10mm程度のずれ量を目標としたが、支承セットにはスライドジャッキを使用すること、また橋軸方向への引寄せ設備は、台船ウィンチより耐力が小さいことより、安全面、効率面から20〜30mm程度までの位置調整で完了させた。概要図を図—3に示す。

図—3 一括架設概要図

2)潮位低下による荷重移行

  潮位低下により台船上の橋体荷重を橋脚へ移行させるため、満潮時(8:00)〜干潮時(13:00)の間、引寄せ設備、係留ワイヤおよび曳船により所定位置に台船を保ち、潮位低下を待って橋体荷重を橋脚に移行させた。

  当日の潮汐は、これまで観測してきた挙動と異なり、予想より100mm以上潮位が高く、その後の潮位低下予測が不明確であったため、仮受け設備についてもh=750mmから850mmに変更した。図—4に、荷重移行ステップを示す。

図—4 荷重移行ステップ

  なお、荷重移行による桁の橋軸方向変位は6mm程度であり、仮受け設備に水平力などの影響が生じない事を予め確認しておいた。

3)台船離脱・係留・ジャッキダウン

  橋脚へ荷重移行が進むと、ベントと橋体との間にクリアランスが除々に生じる。台船離脱への準備作業として、ベント受点設備の解体およびベント付近の吊足場組立を行い、すべてのベントのクリアランスを確認した後、台船離脱を係留ウィンチ操作および曳船により行い、架設前に係留していた右岸岸壁に台船の再係留を行った。台船係留後、航泊禁止措置の解除を行った。

  台船進入時の橋体と橋脚との高低差は、予定余裕量(600mm)と荷重移行時の台船上昇量(670mm)を足し合わせ1,300mm程度としたが、当日の予想潮位差は850mmであるため、潮位差だけで支承位置まで降下することはできなかった。そこで、台船上の橋体が橋脚上に移動した時点で仮設備により仮受けを行った。その後、仮受け部でジャッキダウンを行い、橋体を正規位置に設置を行った。

4.おわりに

 本工事は、係留した台船上にベント・桁組立を行い、そのまま台船一括架設する前例の少ない工法を採用した。すべての作業が不安定な台船上で行ったため、精度管理・出来形管理は工場製作〜現場架設まで試行錯誤により考えられる最善の方法とした。

  一括架設時は、予測と違う潮位の変化に惑わされたものの、台船移動および荷重移行も予定した手順通りに進め、桁架設を完了することができた。今回の報告が同様な工事のさらなる合理的な施工に役立つことになれば幸いである。